福生駅の線路沿いには、長い長い道がずーっと伸びています。
電車が来るのもほどほどに、人の行き来もほどほどに、道には蝶が飛んでいる。そんなしんみりした空気のある道を北へ北へと向かいます。
次の駅、羽村駅に至る手前、二つ目の踏み切りを渡ると、そこには静かな六差路があり、向かって正面に大きな大きな「讃岐うどん」の看板が見えて来ます。
「一心」は、讃岐うどんの名店「凡蔵」に師事した大将が一人で手がけるお店です。店は床屋を改装したものだそうで、外観にはその名残がちらほら見え隠れします。
狭い店内は不思議な形をしていて、カウンターが5席にテーブルが2つ。奥の厨房で大将が作業しています。壁には
「親父一人で切り盛りしているので至らない所もあるかと…」との張り紙がありました。
ガラス棚には「さぬきうどんメーリングリスト」のシールが貼ってあり、極東さぬきうどんメーリングリスト御用達の店である事がわかります。下には年代物のサワーが鎮座していて、上に積まれているマガジンは2週間物。テレビは何と
PC-9821Cbです。ハイカラなんだかそうで無いんだか、何処から突っ込めば良いのかわからない店内が、逆に親しみを感じさせます。
ぶっかけうどんを注文すると、大将がうどんを茹で始めました。15分程待って出て来たうどんは当然茹で立て。わかめ、天かす、ネギ、レモン、そして意外にもカニ蒲鉾がうどんに乗っています。
レモンを絞ってうどんを啜ると、
ぬおおおおお。これは外見からは想像もつかない正統派讃岐うどんです。固めのコシがぐいぐい顎を刺激します。並々と注がれたダシも具もなかなか、カニ蒲鉾も意外とうどんと合います。
先の「麦太」も讃岐うどんの店でしたが、食べた限りでは今回の「一心」の方がより、讃岐うどんらしい印象を受けました。
場所、雰囲気、味共に、妙に香川を思い起こさせる不思議なお店です。東京のこういう所でこんな本格的な讃岐うどんが食べられるとは、何だか嬉しくなってしまいますね。